前受金は、商品を提供する前に、得意先(顧客)から予めいくらかのお金をもらっておくことです。
SAPにももちろん、前受金のプロセスがありますが、通常の債権プロセスとは、ちょっと異なります。
この記事では、SAPの前受金処理をするための前提設定・前受金プロセスがどのように進むのかを解説していきます。
※こちらの記事で、仕入先へ支払う前払金プロセスを解説しているので、気になる方は参考に読んでみてください。(前受金と逆のプロセスです)
前受金とは
前受金とは、商品を提供する前に、得意先(顧客)から予めいくらかのお金をもらっておくことです。
前受金は、前金・内金・手付・頭金など、いろいろな呼び名があります。
前受金は、得意先の与信が低かったり、出荷する商品があまりにも高額な場合、商品を得意先に出荷する前に、総額の何%かのお金を事前にもらいます。
前受金をもらうかどうかは、得意先との契約次第になります。
みなさんも車の購入で前金を払ったり、賃貸不動産の契約で前もって4月分の家賃を払ったりしたことがあると思います。
それと同じです。
前受金の仕訳
一般的な話になりますが、前受金は「負債」になります。
自社視点で見れば、将来必ず得意先に商品・サービスを提供する義務を負うことになります。
そのため、以下のように前受金は負債に仕訳が立ちます。
前受金が負債に残っているということは、まだ商品・サービスの提供義務が残っているということになります。
その後、実際に商品を提供し、請求を上げた時に、売上と売掛金が上がります。
(商品の価格が5万円のケース)
売掛金(50,000円)/売上(50,000円)
そして、前受金の消し込み処理をします。
前受金(10,000円)/売掛金(10,000円)
商品が5万円で、前受金が1万円だったので、残り4万円は商品提供後に得意先からお支払いいただきます。
支払っていただければ、売掛金を消し込み、受け取った現金などで計上します。
現金(40,000円)/売掛金(40,000円)
※前受金消込と売掛金消込を同時に実施しても問題ありませんが、残金が支払われるまでリードタイムがあるため、2回に分けるか、1回で終わらせるかは運用の決め次第です。
(上の例では2回に分けています)
1回で消込む場合は、以下のような仕訳になります。
現金(40,000円)/売掛金(50,000円)
前受金(10,000円)/
前受金の前提設定
前受金プロセスをするための前提設定は、2ステップあります。
- 代替統制勘定コードの登録
- 代替統制勘定コードと統制勘定コードのリンク
①代替統制勘定コードの登録
前受金は通常の債権と異なり、「前受金」を負債に計上する必要があります。
そのため、前受金用の「代替統制勘定コード」を事前に設定する必要があります。
代替統制勘定コードは、T-code:FS00 から登録します。
「負債」を指定し、テキストを「前受金」などの分かりやすいテキストにしておきます。
②代替統制勘定コードと統制勘定コードのリンク
続いて、先ほど登録した前受金用の「代替統制勘定コード」を「統制勘定コード」に関連付けるリンク設定をしていきます。
T-code:OBXR もしくはSPROから設定をしていきます。
- 最初の画面で、特殊仕訳コード:A(前受金)の行をダブルクリックします
- ポップアップ画面が出てくるので、関連する勘定コード表を入力します
- 最後に、リンクさせる「統制勘定コード」と「代替統制勘定コード」を入力していきます
③の「統制勘定コード」には、通常の請求書の支払いで受け取る勘定を入力します。
統制勘定コード・代替統制勘定コードのリンクを登録しておくことで、
- 通常の請求→統制勘定コード
- 前受金の請求→代替統制勘定コード
という具合に、自動的に提案されるようになります。
前受金のプロセス
前受金プロセスは、大きく以下の2つのプロセスで進んでいきます。
- 前受金の受け取り
- 残額受け取り
プロセスフローのイメージはこんな感じです。
それでは1つずつ詳しく解説していきます。
受注→請求(前受金用)
受注伝票登録後、さっそく前受金を請求するための請求伝票を登録します。
前受金用の請求伝票は、T-code:F-37 で登録します。
通常の請求伝票登録(T-code:VF01)では、「売掛金/売上」の仕訳が立ちますが、
前受金の場合、会計伝票が登録されず、「備忘明細」に登録されます。
備忘明細とは、未回収の前受金があるよ ということを忘れないようにするための伝票です。
前受金伝票転記
実際に前受金を支払ってもらうための請求書を発行し、得意先から前受金を受け取ったら、「前受金伝票転記」をします。
T-code:F-29(前受金伝票転記)で処理します。
ポイントは、特殊仕訳コード:A を指定することです。
転記ができれば、T-code:FBL5N(得意先明細照会)で、「タイプ:特殊仕訳トランザクション」を指定し、実行することで、前受金の会計伝票一覧を見ることができます。
前受金が1万円の場合、このような仕訳で会計伝票が登録されます。
現金(10,000円)/前受金(10,000円)
出荷→出庫確認
実際に商品の準備ができれば、出荷伝票を登録し、出庫確認で自社の製品を得意先に出荷します。
出庫確認では、自社在庫がなくなるので、このような会計仕訳が自動で登録されます
製品在庫がなくなり、売上原価がたちます。
請求(残額用)
出荷した商品が得意先に届き、得意先へお金の請求をします。
請求をしても、いきなりお金をもらえるわけではないので、いったん「売掛金」という形で計上します。
請求伝票を登録すると、このような会計仕訳が自動で登録されます。
(商品の価格が5万円の場合)
売掛金(50,000円)/売上(50,000円)
前受金 消込転記
予め受け取った前受金を売掛金で消込転記します。
T-code:FB05(消込転記) で実行します。
消込転記をする前に、T-code:FBL5N(得意先明細照会)で、対象の得意先の消し込む伝票を確認します。
前受金が1万円だったので、売掛金1万円と消し込みます。
前受金の消し込みをすると、このような仕訳の会計伝票が登録されます。
前受金(10,000円)/売掛金(10,000円)
残額 消込転記
実際に残額分を支払ってもらったら、売掛金と受け取った勘定で消込転記をします。
T-code:FB05(消込転記) で実行します。
消込転記をする前に、T-code:FBL5N(得意先明細照会)で、対象の得意先の消し込む伝票を確認します。
商品が5万円で、前受金が1万円だったので、残り4万円は商品提供後に得意先からお支払いいただきます。
支払ってもらった4万円と、売掛金4万円を消し込みます。
現金(40,000円)/売掛金(40,000円)
参考:前受金・売掛金の同時消込
前受金消込と売掛金消込を同時に実施しても問題ありませんが、残金が支払われるまでリードタイムがあるため、2回に分けるか、1回で終わらせるかは運用の決め次第です。
(上の例では2回に分けています)
1回で消込む場合は、以下のような仕訳になります。
現金(40,000円)/売掛金(50,000円)
前受金(10,000円)/
まとめ:前受金プロセスは2ステップ
前受金プロセスは以下の2ステップです。
- 前受金の計上
- 残金の計上
通常の債権プロセスよりも、前受金計上・消込処理が入ります。
どの企業でも前受金の業務はあります。
考え方はシンプルなので、ぜひこの記事を通して、前受金プロセスと前提設定について理解いただければと思います。
現金(10,000円)/前受金(10,000円)