企業の基幹システムであるSAPは、モジュールと呼ばれる業務領域ごとの機能群に分かれます。
SAPモジュールとは、SAPの機能をざっくりとまとめた単位のことです。
SAPのモジュールを意識することによって、SAP全体の構造やそれぞれの機能のつながりがわかりやすくなります。
この記事では、SAPにどんなモジュールがあるのか、それぞれのモジュールの特徴について解説していきます。
Contents
SAPモジュールとは?
SAP ERP では、以下のモジュールに分かれます。
モジュール名 | 略称 | 英語名 |
財務会計 | FI | FInancial Accounting |
管理会計 | CO | COntroling |
販売管理 | SD | Sales and Distribution |
調達/在庫管理 | MM | Material Management |
生産計画/管理 | PP | Production Planning and Control |
品質管理 | QM | Quality Management |
プロジェクト管理 | PS | Project System |
プラント保全 | PM | Plant Maintenance |
人事管理 | HR | Human Resources |
ベーシス | Basis | Basis |
※SAPでは、太字で記載してある英語2文字の略称で呼ぶことが多いです。
FI/COを会計系、SD/MM/PPをロジ系と呼ぶことが多いです。

新入社員で入ると、このモジュールのうちのどれかを担当し、モジュールのスペシャリストとしてスキルアップしつつ、近しいモジュールのことも学んでいくのが、SAPコンサルのキャリアパスの王道です。
キャリアパスについて知りたい方は、こちらのキャリアパスモデルの記事をどうぞ。
それでは、それぞれのモジュールの特徴について、解説していきます。
FI(財務会計)
FI(財務管理)では、BS・PL・CSといった財務諸表(社外向けのレポート)の作成を目的としたモジュールです。
SAPは会計システムから始まったと言われており、カネの移動・モノ(資産)の移動がすべてFIモジュールに繋がっています。
そのため、SAPを導入するクライアントのほとんどが、このFIモジュールを使用します。
FIモジュールでは主に以下4つの機能を保持しています。
サブモジュール | サブモジュール名称 | 概要 |
FI-GL | 総勘定元帳 |
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FI-AR | 債権管理 |
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FI-AP | 債務管理 |
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FI-AA | 固定資産管理 |
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CO(管理会計)
CO(管理会計)は、社内の原価管理を目的としたモジュールです。
「費用」と「収益」を収集し、社内向けレポートの作成し、社内のどの品目の収益性がいいのかを分析することがCOモジュールのゴールです。
COモジュールは大きく分けて以下3つの機能があります。
サブモジュール | サブモジュール名称 | 概要 |
CO-OM | 間接費管理 |
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CO-PC | 製品原価管理 |
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CO-PA | 収益性分析 |
|
COモジュールを使用することにより、どの製品の収益が良いのか、どの製品の原価を見直す必要があるのか、というようにコストベースで会社の体調を把握することができます。
多くの企業では、標準原価(これくらいのコストで生産できるだろう)というのは計算できています。
しかし、調達・生産・販売の実績からくる実際原価(どれだけコストがかかったか)というのは、できている企業はほとんどいません。
そのため、SAPを導入する企業の目的の1つに、COモジュールを使った原価管理をあげているクライアントが多いです。
COモジュールのプロセス・機能などを知りたい方はこちらの記事もどうぞ
SD(販売管理)
SD(販売管理)モジュールは 受注→出荷→請求 の3つのプロセスから成り立っています。
具体的にいうと、得意先からの受注をもとに、製品の出荷、その後 得意先へお金の請求をしていきます。
プロセス | 概要 |
受注 |
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出荷 |
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請求 |
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SDは基本的に、受注→出荷→請求 の3ステップで行われますが、
- 返品の場合、返品受注→入荷(出荷の逆)→請求取消 や
- サービスを売っている会社の場合、受注→請求
といった販売プロセスを柔軟に組み替えることができます。
また、得意先ごと・国ごと・販売数量割引など、価格を柔軟に設定することができます。
自社の販売戦略や得意先との契約都合に合わせて、SAPでは対応できる標準機能を保持しています。
SDモジュールのプロセス・機能などを知りたい方はこちらの記事もどうぞ
MM(調達/在庫管理)
MM(調達/在庫管理)モジュールは、購買依頼→購買発注→入庫→請求書照合 という4つのプロセスからなる調達管理と、入出庫・棚卸など、在庫管理の2つのメイン機能から成り立っています。
【調達管理】
プロセス | 概要 |
購買依頼 |
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購買発注 |
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入庫 |
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請求書照合 |
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調達管理では、資材・原材料の発注はもちろん、外注やサービス品の発注・契約発注といった、さまざまな発注のタイプに対応できます。
【在庫管理】
プロセス | 概要 |
入出庫 |
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棚卸 |
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発注伝票・製造指図・出荷指示などの伝票起点で入出庫を起こしたり、廃棄など突発的に発生する入出庫など、さまざまな入出庫をすることができます。
また、在庫の増減があるということは、在庫資産の増減があるということです。 在庫増減がどういった会計仕訳で起こすかを、「移動タイプ」という入出庫の種類に合わせて紐づけて管理することができます。
MMモジュールのプロセス・機能などを知りたい方はこちらの記事もどうぞ
PP(生産計画/管理)
PP(生産計画/管理)は、生産計画→製造指図→製造実績 という3つのステップで成り立っています。
プロセス | 概要 |
生産計画 |
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製造指図 |
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製造実績 |
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受注(SD)をもとに、生産計画(PP)を立て、原材料を発注(MM)に繋がります。
また、製造実績(PP)を計上することにより、在庫(MM)が変わり、実際原価計算(CO)がされます。
そのため、PPは他モジュールに一番関連するモジュールです。
PPモジュールのプロセス・機能などを知りたい方はこちらの記事もどうぞ
QM(品質管理)
QM(品質管理)は、品質検査ロット登録→品質検査記録→使用決定 という3つのステップで成り立っています。
プロセス | 概要 |
品質検査ロット登録 |
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品質検査記録 |
|
使用決定 |
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QMモジュールを使用することにより、品質検査と在庫ステータスをリアルタイムに連携ができます。
また品質検査マスタを駆使することにより、品目・検査タイプごとに柔軟な検査項目の設定ができます。
QMモジュールのプロセス・機能などを知りたい方はこちらの記事もどうぞ
PS(プロジェクト管理)
PS(プロジェクト管理)は、プロジェクト・ポートフォリオ管理を実行するためのモジュールです。
プロジェクトの計画→予算編成→実行→完了 といったプロセスで成り立っており、プロジェクトのライフサイクルを管理します。
PSモジュールを使用することにより、当初立てた期間・予算に対して、実績を入れていくことで、プロジェクトの進捗・コストを把握することができます。
主に、建設業や大型機器メーカーといった業界で使用されます。
PM(プラント保全)
PM(プラント保全)は、設備をメンテナンスするために使用されるモジュールです。
PMモジュールでは、の検査・予防保全・修理 といった3つのメイン機能があります。
プロセス | 概要 |
品質検査 |
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定期保全 |
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修理 |
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PMモジュールは、プラントやインフラ(電力・ガス・水道など)の業界で使用されます。
HR(人事管理)
HR(人事管理)は、HCM(Human Capital Resources)とも呼ばれます。
HRモジュールでは、主に以下の機能を持っています。
プロセス | 概要 |
組織管理 |
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勤怠管理 |
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人材管理 |
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給与管理 |
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採用管理 |
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人材開発 |
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従業員経費管理 |
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HRモジュールは、採用から退職まで、企業のさまざまなHRプロセスを自動化、合理化、最適化するために使用されます。
HRモジュール単独で導入されることが多いですが、給与や従業員経費などのお金周りは、FI(財務会計)に連携するクライアントもあります。
Basis(インフラ・ミドルウェア)
Basisはモジュールではありませんが、SAPを動作させるためのインフラ・ミドルウェアを担当します。
ここまで解説してきたモジュールとは異なり、OS・DB・ネットワーク・ストレージなどのITよりの知識が必要です。
それに加え、SAP固有の移送・クライアント・ユーザ管理・権限管理・ジョブ・パラメータといった業務までこなします。
SAPの話になると、Basisにスポットが当てられることはあまりありませんが、SAPが正常に稼働するために非常に重要なポジションです。
サマリ
SAPは各モジュールごとに業務領域が分かれていますが、データとして必ず紐づく関係にあります。
まずは、1つのモジュールのスペシャリストとして、スキル・経験を積み上げていくことになりますが、必ず他モジュールとの連携の知識が必要になってきます。
そのため、他モジュールを意識しながらスキルアップを図っていくことが、クライアントにとってよいコンサルタントに近づくことになります。