SAP CO(管理会計)では、間接費管理・製造原価管理・収益性分析の主に3つの機能があります。
COモジュールを使うことにより、企業の収益と費用の分析ができ、経営戦略のために導入必須なモジュールです。
COは、FI(会計管理)とはもちろん、ロジ系モジュール(PP・MM・SD)とも連動しており、ほぼすべてのモジュールと関連しています。
そのため、SAPコンサルとしてCOモジュールを理解することで、よりいっそうSAPコンサルとしての厚みも増します。
また、COモジュールは初めての方にとって、参入障壁が高い(理解するのが難しい)領域です。
この記事では、COモジュールとは何か、管理会計とは何か、初心者でも分かるレベルで解説していきます。
SAP会計領域(FI・COの違い)
まず初めにSAPの会計領域のモジュールの話を簡単にします。
SAPの会計領域は、FI(会計管理)とCO(管理会計)の2つに分かれます。
FI(会計管理)は、財務諸表など社外向けレポート作成のためのモジュールです。 財務諸表とは、貸借対照表・損益計算書のことです。 各企業のホームページからIR情報としてこれらのレポートを見ることができます。
CO(管理会計)は、収益性分析など社内向けのレポート作成のためのモジュールです。 社内向けレポートのため、百社百様のレポートで、原価をベースに経営判断のためのレポートや、原価差額から製造分析レポートなど作ります。
原価とは何か
まずSAP COモジュールの説明に入る前に、原価管理がどういうものかの説明を簡単にします。
原価管理情報と業務の関係
こちらの図が、企業で行われる業務活動です。 SAPユーザにも分かるようにモジュールも合わせて書いてみました。
この業務活動のうち、オレンジの部分が「製造原価」として計算され、ブルーの部分が「販売費及び一般管理費」として計算されます。
「製造原価」とは、製品を作るのにどれだけコストがかかったかを計算します。
具体的にいうと、材料費・加工費・製造部門の人件費・製造機器の購入代(減価償却費)などが、これにあたります。
「販売費及び一般管理費」とは、営業のコストや間接部門のコストを計算します。
具体的にいうと、広告宣伝費・間接部門の人件費・オフィスの家賃・電話代などの通信料などが、これにあたります。
「製造原価」・「販売費及び一般管理費」の管理ができると、何がうれしいかというと、「損益計算書(P/L)」に使え、利益がどれだけ出ているか分かるということです。
こちらが損益計算書です。 「製造原価」・「販売費及び一般管理費」と「損益計算書」はそれぞれこのような関係になります。
製造原価について
続いて、製造原価の内訳についてです。
製造原価は主に「直接費」と「間接費」に分かれます。
- 直接費とは、どの製品に使ったコストなのか直接的に分かる費用のことです。
- 間接費とは、複数の製品にまたがって使用されるコストで、どの製品に使ったのか直接的にはわからない費用のことです。
また、直接費・間接費は、それぞれ経費・労務費・材料費に分けられます。
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原価全体から見ると、このような関係になります。
SAP COモジュール(管理会計)でも、上記のような一般的な原価の考え方を元に動いています。
続いて、COモジュールについて詳しく解説していきます。
COモジュール全体概要
COモジュールは、大きく間接費管理・製造原価管理・収益性分析という3つのサブモジュールに分かれます。
3つのサブモジュールの関連を表したのが、こちらの図です。
間接費管理では、間接費を各原価要素(経費・労務費・材料費など)ごとに集計し、各部門に費用配賦することを目的としています。
製造原価管理では、間接費管理から配賦された間接費や、製造実績(直接費)を集計し、製品の製造にかかったコスト(製造原価)を計算することを目的としています。
収益性分析では、SD・FIから連携された売上、製造原価管理から連携された売上原価、間接費管理から連携された販売費及び一般管理費といったデータをもとに、収益の分析を目的としています。 収益性分析では、セグメント別(事業別・製品別など)に収益の分析ができます。
図を見ると、SAPの他モジュールからCOモジュールにデータ連携されていることが分かります。
そのため、SAP COモジュールを理解することは、他のモジュールの理解も必要なため、一番SAPを理解できるモジュールでもあります。
それでは、3つのサブモジュールについて、もう少し詳しく説明していきます。
間接費管理(CO-OM)
間接費管理(CO-OM)の「OM」とは、「Overhead Management」の略で、Overhead = 間接費 のことです。
間接費管理(CO-OM)では、①製造に直接関係のない費用を集計し、②各部門に配賦することを目的としています。
間接費は間接経費・間接労務費・間接材料費の3つに分けられます。
各費用の例を見ていただけたら分かるのですが、直接費はどの部門で使ったコストなのかが分かります。
一方で、間接費はどの部門で使ったコストなのか分かりません。
とはいえ、製造をするための工場も、製造に直接は関わらない品質管理部門・構内物流部門の方の人件費も、文房具などの消耗品も、すべて生産活動をする上で必要なコストです。
そのため、これら間接費を各関連部門に割り勘することを「配賦」と呼びます。
ここまでの説明で間接費管理(CO-OM)では、
- 間接費を集計すること
- 集計した間接費を関連する製造部門に配賦すること
の2つを実行するサブモジュール、ということを理解いただけたかと思います。
製造原価管理(CO-PC)
製造原価管理(CO-PC)の「PC」とは、「Production Cost」の略で、Production Cost = 製造原価 のことです。
製造原価管理(CO-PC)では、①間接費の配賦、②生産マスタ/製造実績の集計、③ ①②を元に標準原価計算・実際原価計算をすることを目的としています。
また製造原価では、標準原価と実際原価という2つの原価計算の考えがあります。
標準原価計算
標準原価計算は、生産マスタのBOM・作業手順マスタを使って、製品・半製品の原価を計算する機能です。
標準原価はこちらの図のようになります。 材料費(BOM)・加工費(作業手順)をもとに積み上げていきます。
加工費とは、労務費・経費のことです。
簡単に言うと労務費・経費から賃率(分かりやすくいうと時給など)が計算され、賃率 x 作業時間 で加工費が決まります。
この賃率を計算するのに、間接費からの配賦により算出されます。
上記の例でいうと、「ご飯」の標準原価は、このような計算を元に算出されます。
- 白米1合 = 100円(材料費)
- 水300ML = 200円(材料費)
- 炊く1H = 800円(加工費)
- →ご飯 = 1,100円
標準原価はあくまで理論値の原価となります。
BOMマスタで、ご飯を作るのに、白米1合・水300ML がいる”想定”。
作業手順マスタで、ご飯を作るのに、炊くのに1時間かかる”想定”。
そのため、ご飯の原価は合計1,100円になる”想定” という考えです。
実際原価計算
実際原価計算は、標準原価(BOM・作業手順)に対して、実際に材料をいくら使ったか、実際にいくら作業時間がかかったか、という実際の生産活動・購買活動を元に、算出される原価のことです。
例えば、以下の図の「ご飯」を作るのに実際にかかった数量・時間が赤字部分だったとします。
上記の例でいうと、「ご飯」の実際原価は、このような計算を元に算出されます。
- 白米1合 = 100円(材料費)
- 水300ML = 220円(材料費)
- 炊く1H = 1,200円(加工費)
- →ご飯 = 1,520円
実際原価計算をすることで標準原価との原価差異分析ができるようになります。
原価差異分析ができるようになって、何がうれしいかというと、
- どの品目のロスが大きいのかな?
- どの工程で作業時間が大幅にかかっているのかな?
- そもそも標準原価が見合っていないのかな?
といったことが、コストベースで分析ができるようになります。
収益性分析(CO-PA)
収益性分析(CO-PA)の「PA」とは、「Profitability Analysis」の略で、Profitability Analysis = 収益性分析 のことです。
収益性分析(CO-PA)では、①「間接費管理・製造原価管理から連携された原価情報」と「SD・FIから連携された収益情報」を合わせた分析をすることを目的としています。
収益性分析のレポートでは、製品別・得意先別・販売組織別など、多次元で収益性の分析ができます。
収益性分析は多次元分析ができるので、説明資料ではよくこのようなキューブの図を用いて説明されます。
サマリ
ここまでSAP COモジュール(管理会計)の解説をしてきました。
COモジュールでは、以下3つのサブモジュールに分かれます。
- CO-OM:間接費管理
- CO-PC:製造原価管理
- CO-PA:収益性分析
原価は難しく考えられがちですが、簡単にいうとこのようになります。
- 間接費管理で、間接費の集計をし、各部門へ配賦
- 製造原価管理で、直接費と配賦された間接費を、製造実績を元に計上
- 収益性分析で、集まった原価情報やFI・SDから連携された収益情報を元に分析
細かいところは、別の記事で解説していきますが、まずは上記1・2・3をCOモジュールでは実施している、という概要レベルをこの記事では理解してもらえればOKです。