得意先預託在庫とは、得意先との契約により、モノは得意先にある状態だが、資産上はまだ自社にある在庫のことです。
通常の受注・出荷・請求プロセスとは異なり、得意先預託在庫専用のプロセスがあります。
この記事では、得意先預託在庫とは何か、得意先預託在庫を使用したプロセス、在庫照会方法、得意先預託在庫プロセスの代替ソリューションについて解説していきます。
得意先預託在庫とは
得意先預託在庫とは、モノは得意先にある状態だが、資産上はまだ自社にある在庫のことです。

※仕入先受託品在庫と逆の考え方になります。
SAP上、特殊在庫区分の1つとして管理され、特殊在庫区分:W(得意先預託在庫)として表されます。
得意先預託在庫は、別名VMI(Vendor Management Inventory)とも言われ、得意先からするとVendor(仕入先)が管理している在庫を使った分だけ費用支払いする方式です。
日本で有名なのが「富山県の薬売り」で、富山県では一家に1つ医薬品メーカー(自社)から支給された薬箱があります。
薬箱をもらった段階ではまだ支払いは発生せず、使った分だけメーカーに支払いをします。
つまりモノ(薬)は各家庭(得意先)にある状態なんだけど、資産はまだメーカー(自社)のもの。 そして各家庭(得意先)が使用した分だけメーカーに支払いをする、という仕組みです。
得意先預託在庫のプロセス
得意先預託在庫プロセスは、4つに分かれています。これから4つのプロセスについて、それぞれ詳しく解説していきます。
得意先預託在庫プロセスの全体概要
まずは4つのプロセスがどのような関係になっているかを、こちらの全体図を使って説明していきます。

得意先預託在庫プロセスは、こちらの4つのプロセスがあります。(正方向:2つ、返品方向:2つ)
プロセス | 預託品引渡 | 預託品出庫 | 預託品返品 | 預託品引取 |
受注 | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ |
伝票タイプ | KB | KE | KR | KA |
明細カテゴリ | KBN | KEN | KRN | KAN |
納入日程カテゴリ | E1 | C0 | D0 | F0 |
出荷 | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ |
ピッキング | ✔ | |||
出庫 | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ |
移動タイプ | 631 | 633 | 634 | 632 |
請求 | ✔ | ✔ |
預託品引渡
預託品引渡は、自社から得意先にモノを出荷するプロセスです。
通常の販売プロセスと異なる点は、得意先預託在庫となるため、出荷後に請求が発生しないところです。
そのため、受注 → 出荷 → 出庫 というプロセスのみになります。
こちらがプロセスフローです。(カッコ内にトランザクションコードを記載しています。)

- 受注伝票登録(T-code:VA01)
- 出荷伝票登録(T-code:VL01N)
- ピッキング(T-code:VL02N)
- 出庫確認(T-code:VL02N)
4.出庫確認をすると、出荷出庫した得意先配下の預託品在庫として在庫移動されます。
預託品出庫
預託品出庫は、得意先預託在庫から在庫を引落すプロセスです。
実際の運用では得意先は都度モノを出庫している”はず”ですが、リアルタイムに出庫連絡をいただけるわけではないです。
そのため、得意先との取り決めにより、日次なのか・週次なのか・月次なのか、出庫数量の連絡をいただく頻度を調整をする必要があります。
得意先預託品は、得意先が実際に出庫した数量見合いで請求のため、預託品出庫プロセスにて請求処理をします。
こちらがプロセスフローです。(カッコ内にトランザクションコードを記載しています。)

- 受注伝票登録(T-code:VA01)
- 出荷伝票登録(T-code:VL01N)
- 出庫確認(T-code:VL02N)
- 請求(T-code:VF01)
3.出庫確認をすると、得意先預託在庫が引き落とされます。
預託品返品
預託品返品は、得意先預託在庫へ在庫を戻すプロセスです。
いったん預託品出庫したが、何かしらの理由で返品する場合に、このプロセスを使用します。
預託品出庫プロセスで請求処理をしているため、預託品返品プロセスでは請求の赤を登録する必要があります。
こちらがプロセスフローです。(カッコ内にトランザクションコードを記載しています。)

- 受注伝票登録(T-code:VA01)
- 出荷伝票登録(T-code:VL01N)
- 出庫確認(T-code:VL02N)
- 請求(T-code:VF01)
3.出庫確認をすると、得意先預託在庫に戻ります(入庫されます)
4.請求は返品のため、売上のマイナスの会計伝票につながります。
預託品引取
預託品引取は、得意先預託在庫から自社在庫へ戻すプロセスです。
いったん得意先預託在庫としたものを、何かしらの理由で自社へ戻す場合に、このプロセスを使用します。
こちらがプロセスフローです。(カッコ内にトランザクションコードを記載しています。)

- 受注伝票登録(T-code:VA01)
- 出荷伝票登録(T-code:VL01N)
- 出庫確認(T-code:VL02N)
3.出庫確認をすると、得意先預託在庫から自社在庫へ戻ります(入庫されます)
得意先預託在庫 照会方法
得意先預託在庫は、T-code:MB58 にて在庫照会画面がSAP標準で用意されています。
品目・プラント・ロット・得意先単位で条件選択し、照会が可能です。
得意先預託在庫を使用しない代替案
ここまでで得意先預託在庫のプロセスについて解説してきました。
実際にプロセスを読んでみて、受注2回も登録しないといけないの? 預託品出庫なんて得意先に在庫あるのに出荷伝票登録しないといけないの? あーめんどくさ。 って思いませんでしたか?笑
実際にこの得意先預託在庫を使おうとなると、ユーザにこのプロセスを覚えてもらわないといけなかったり、得意先預託在庫用の伝票タイプをコンフィグしていかないといけなかったり、手間が多いので、毛嫌いされるケースもあります。
また、すべての得意先が得意先預託在庫を使うわけではなく、一部の得意先に限られたりします。
そのため、得意先預託在庫を使わず、他の方法で実現できないのか? というユーザの要望もあるので、ここでは私が実際に提案し実現した運用方法をお伝えします。
得意先専用保管場所を使用
SAPの特殊在庫区分:W(得意先預託在庫)は使いませんが、あたかも得意先預託在庫として扱ってることを表すため、得意先専用の保管場所を使うソリューションです。
まずイメージから説明すると、このようになります。

まず「自社保管場所」から「得意先専用保管場所」へ在庫転送をします。
(ここでは在庫転送オーダーを使っていますが、1Step保管場所間転送でもOKです。)
その後、得意先専用保管場所から出庫するため、通常販売のプロセスに沿って、受注・出荷・出庫・請求という処理に乗せて実施していきます。
このソリューションのメリットとして、
- 得意先預託在庫用の伝票タイプを使用する特殊運用が避けられること
- 得意先への出荷を在庫転送で実施できること
の2点です。
得意先預託在庫用のコンフィグを避けられるので、あえてこちらのみを提案するコンサルもいるかと思います。(コンフィグ工数・テスト工数削減になります)
サマリ
ここまでで得意先預託在庫とは何か、4つのプロセスフロー、在庫照会トランザクション、そして代替ソリューションについて説明してきました。
得意先預託在庫は、自社と得意先の取り決めにより、やる・やらないが決まりますが、実際には母数として多くないのが現状です。
そのため、SAP標準の得意先預託在庫を使わずに、代替ソリューションで運用を回す会社も実際にはあります。
とはいえ、SAP標準の機能を知ったうえで、クライアントと検討をし、結論として代替ソリューションに持っていくのがSAPコンサルとしてあるべきかと思います。
ニッチ機能ではありますが、この記事をとおして得意先預託在庫について理解が少しでも深まったのであれば、幸いです。
(参考)特殊在庫区分一覧
得意先預託在庫は、「特殊在庫区分」のうちの1つです。
SAPは他にも特殊在庫区分があり、こちらの記事にまとめています。
他の特殊在庫区分も知りたい方は、こちらの記事を参考に読んでみてください。