生産計画の最後のステップである能力計画について、この記事では解説します。
生産計画の中で一番難しいと思われがちなパートですが、整理して理解すると、そこまで難しくありません。
この記事ではPP初心者でも分かりやすく解説するので、最後まで読んでみてください。
また、生産計画の概要について読まれていない方は、こちらを先に読んでみてください。
能力計画とは
SAP PPモジュールの能力計画機能は、「製造機械や人の生産能力」と「品目を製造するのに必要な能力」の2つを比べ、生産計画を立てることです。
「製造機械や人の生産能力」は、利用可能能力 と呼び、
「品目を製造するのに必要な能力」は、能力所要量 と呼びます。
能力評価は、利用可能能力 と 能力所要量 を比較することです。
負荷平準化は、能力評価をもとに、負荷が高い部分を分散することです。
- まずは、能力評価をするために必要な「利用可能能力」と「能力所要量」を算出するために、マスタをどう設定するか説明したのちに、
- どのように能力評価をするか、
- どのように負荷平準化をするか、
について、解説していきます。
利用可能能力
利用可能能力は、「製造機械や人の生産能力」のことです。
利用可能能力は、作業区マスタの以下の項目を使って、一日のうち、いくら作業時間の確保が可能なのかを設定をします。
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「開始時間」「終了時間」
開始時間、終了時間は、一日の作業開始時間・終了時間を設定します。
例えば、8時-17時が稼働時間であれば、開始時間:8時、終了時間:17時 と設定します。
もし、24時間稼働であれば、開始時間:0時、終了時間:24時 と設定します。
「休憩時間」
一日の稼働時間のうち、休憩時間を設定します。 休憩時間は、利用可能能力から休憩時間分の時間が差し引かれる仕様になっています。
例えば、休憩時間を1日1時間とっているのであれば、1時間 と設定します。
機械の場合、休憩時間(ストップする時間)がないのであれば、0時間 と設定します。
「能力利用度」
能力利用度は、稼働時間のうち何%稼働できるのかを設定します。
例えば、機械のメンテナンスを1日のうち、10%くらいの時間を取っている場合、能力利用度は 90% と設定します。
「個別能力数」
個別能力数は、機械の数や人の数を設定します。
例えば、開始時間・終了時間が8-17時(8時間稼働)で、個別能力数を 2 と設定した場合、トータル 16時間分(8時間 x 2)の作業が可能 という設定になります。
設定例
以下の設定値を入力した場合の利用可能能力は、
→ (終了時間 – 開始時間 – 休憩時間) x 能力利用度 x 個別能力数 =21.6 時間 |
となります。
能力所要量
能力所要量は、「品目を製造するのに必要な能力」です。
能力所要量は、作業区マスタ・作業手順マスタを使って、品目をいくら作るのに、いくら時間がかかるかを設定をします。
まずは、作業区にどういった作業時間を使用するか、「標準値」を割当てます。
SAPのよくあるデモでは、機械時間・人時間 という2つの時間が入った標準値を使用しますが、
ここは実際原価計算にも使用される時間なので、それぞれの会社によってカスタマイズで割り当てる時間を設定します。
例えば、あるクライアントでは、固定機械時間・変動機械時間・固定人時間・変動人時間 といったような項目に設定しました。
ここはクライアント要件によって使用したい時間が異なるので、どんな項目を作業時間を設定するか、ヒアリングが必要です。
次に作業区マスタで、作業の「段取時間」「処理時間」「片付け時間」を、上で設定した標準値の時間を使用して、計算式を設定します。
例えば、機械を使っているような工程(作業区)の処理時間であれば、
- 処理時間 = 機械時間 x (作業数量 / 基本数量)
といったような計算式を設定します。
最後に、作業手順マスタで品目を生産する基本数量・作業時間(上の例だと、機械時間・人時間)を設定します。
例えば、
- 基本数量:100 PC
- 機械時間:2 H
- 人時間:1 H
というような設定をします。
これは、品目を 100 PC 作るあたり、機械時間 2H、人時間 1H かかる ということを意味します。
ここまでが作業区マスタ・作業手順マスタでの設定についてでした。
ここから計画手配になった時にどのように「能力所要量」を算出するかを説明をします。
計画手配になったとき、「作業数量」がわかります。
例えば、この品目を 300 PC 作ってね。 という計画手配がMPS・MRPにて登録されます。
この計画手配の作業数量を使って、作業区に設定した計算式から「段取時間」「処理時間」「片付け時間」を算出します。
段取時間 + 処理時間 + 片付け時間 = 能力所要量 となります。
先ほどの作業区の処理時間を例にすると、
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能力所要量 = 段取時間 + 処理時間 + 片付け時間 のため、上の例では処理時間しか設定していなかったので、能力所要量は 6H となります。
作業時間の考え方
作業区(利用可能能力)で、休憩時間・能力利用度を設定する場合、作業時間に係数をかける という考え方が出てきます。
※作業区で休憩時間・能力利用度を設定しない方は読み飛ばしてもらってOKです。
休憩時間・能力利用度を設定している場合、能力所要量で6h となったとき、単純に8:00~14:00で作業が完了する というわけではありません。
間に休憩時間や能力利用度による休止時間を考慮に入れて、作業が完了する時間を計算しなければなりません。
具体的に図で説明すると、以下のようになります。
作業時間は6時間ですが、休憩時間・利用可能度から「時間係数」を算出し、「実際の作業期間」を求めます。
上の例では、6.67時間となり、8:00~14:40で作業区の利用可能能力を割り当てるような仕様になります。
能力評価
能力評価とは、利用可能能力と能力所要量の比較をすることです。
MPS・MRP実行後に、T-code:CM50 にて、作業区の利用可能能力を能力所要量が超えているかどうか能力評価が可能です。
負荷平準化
能力評価をした後は、利用可能能力を超えている日付の部分の負荷を分散させます。
負荷平準化には、作業区の利用可能能力の増加・代替作業区の使用・外注・作業数量の調整 などがありますが、現実的なのは、日付の調整です。
日付の調整は、T-code:CM25(計画テーブル)にて負荷平準化をしていきます。
T-code:CM25では、SAP標準でいくつかビューを用意されていますが、SAPSFCG011 が使いやすいのでおすすめします。
まずビューを開くと、プールに計画手配が入った状態になっています。
作業が重なっている部分を1作業区に対し、直列になるように、計画手配をドラッグ&ドロップで、作業区と書かれている一番上の部分に持っていきます。
指図(差立)の部分で、作業が重複していない(利用可能能力に対し、能力所要量が超えていない)ことが確認でき、日付の調整にて負荷平準化ができます。
サマリ
この記事では、作業区の利用可能能力と能力所要量について解説し、能力の負荷平準化の方法について解説してきました。
能力計画は、作業区マスタ・作業手順マスタの設定がキーポイントになります。
この設定さえできれば、能力計画は可能です。
けっこう難しくて敬遠されがちな能力計画ですが、実はそこまで難しくないことが分かっていただけたかと思います。
能力計画までSAPでできると、生産システムを別で持つ必要はないので、システム保守費用の削減にもつながります。
ユーザ要望があれば、SAPでどういうことができるか、この記事を参考に説明・要件定義まで持っていってもらえたらと思います。