SAPでは生産時に構成品のロット情報を、生産品のロット情報にコピー(継承)する機能として、「ロット継承」というものがあります。
ロット継承を使うことにより、ロット情報のメンテナンスを楽にしたり、入力ミスをなくしたりすることができます。
この記事では、ロット継承とはどういうものか、ロット継承の設定方法について解説していきます。
ロット継承とは
ロット継承とは、生産時に構成品のロット情報を、生産品のロット情報にコピーする機能のことです。
SAPのロット継承には、以下2パターンあります。
- プル継承
- プッシュ継承
プル継承
プル継承は、BOM構成の中で上位の品目を起点に、下位の品目のロット情報を継承する方法です。
プル継承の場合、レシーバに対し、複数のセンダを設定できます。(レシーバ:センダ=1:N)

プル継承は、以下のタイミングでロット情報の継承を自動発生させることができます。
- 品質検査の使用決定(T-code:QA16など)
- 製造指図リリース(T-code:CO01)
- 製造指図入庫(T-code:MIGO)
- マニュアル実行(T-code:DVMAN)
- ユーザExit
プッシュ継承
プッシュ継承は、BOM構成の中で下位の品目を起点に、上位の品目へロット情報を継承する方法です。
プッシュ継承の場合、センダに対し、複数のレシーバを設定できます。(レシーバ:センダ=N:1)

プッシュ継承は、以下のタイミングでロット情報の継承を自動発生させることができます。
- 品質検査の使用決定(T-code:QA16など)
- マニュアル実行(T-code:DVMAN)
- ユーザExit
※プッシュ継承の場合、上位品目のロットが存在することが前提になるので、使用タイミングが難しいです。 そのため、実際の運用ではプル継承を使うことがほとんどです。
ロット継承の使用ケース
ロット継承では、ロット情報を上位の品目へ継承できます。
「有効期限日」はよくロット継承で継承項目として使用されるケースは多いです。
例えば、以下のようなBOMがあったとします。

みなさんもスーパーに行くと分かると思いますが、クッキーの箱には賞味期限(有効期限日)が書かれていると思います。
本来であれば、有効期限日は最終製品である クッキー(梱包)が作られた日から算出されたものではなく、その下位品目の クッキーが作られた日から算出されたものを使うべきです。
ここでロット継承で有効期限日を継承項目として使った場合、以下のようなイメージになります。

ロット継承を使うことで、クッキーの有効期限日を クッキー(梱包)の有効期限日として継承することができます。
(参考)ロットマスタ
こちらの記事でロットマスタ(ロットの保持項目・情報)についての解説をしています。
ロット継承ではロット情報が引き継がれるため、知っておいてもらいたいポイントです。
前提知識としてぜひとも読んでみてください。
ロット継承の設定方法
それでは、ロット継承の設定方法について解説していきます。
前提カスタマイズ
まずロット継承には3つのカスタマイズを事前に設定しておくことが前提となります。
① 設定: ロット使用先一覧
(メニューパス:IMG->ロジスティクス – 一般->ロット管理->ロット使用先一覧->設定: ロット使用先一覧)
まずプラント単位にロット使用先の同期更新を有効に設定します。
② ロット継承の有効化
(メニューパス:IMG->ロジスティクス-一般->ロット管理->ロットデータ継承->ロット継承有効化)
ロット継承を有効化しておきます。
③ 定義 継承イベント
(メニューパス:IMG->ロジスティクス-一般->ロット管理->ロットデータ継承->定義: 継承イベント)
継承イベントに検索手順を割り当てます、
継承イベントとは、プル継承・プッシュ継承のところで説明したロット情報の継承タイミングのことです。(品質検査の使用決定時、製造指図リリース時など)
継承イベント単位で、「継承タイプ」「ポップアップウィンドウ有無」を設定していきます。
継承タイプには、”静的”・”動的”の2つがあり、通常は”静的”を使います。
ポップアップウィンドウ有無は、継承時にSuccess・Error・Warningのポップウィンドウを必ず表示するか非表示とするかの設定をします。
④ 更新 継承番号の番号範囲
(メニューパス:IMG->ロジスティクス-一般->ロット管理->ロットデータ継承->更新: 継承番号の番号範囲)
継承番号とは、継承実施時に番号が採番されます。
その番号範囲を設定します。
ロット継承マスタ設定(T-code:DVS1, DVR1)
続いて、ロット継承マスタの登録をしていきます。
継承をするうえで、BOM・作業手順・製造バージョンが登録されていることが前提になります。
ロット継承マスタは、
- 継承送信元レコード(センダ)・・・T-code:DVS1
- 継承受信先レコード(レシーバ)・・・T-code:DVR1
の2つを登録していく必要があります。
継承送信元レコード(センダ)・・・T-code:DVS1
センダとなる品目を指定します。
その後、継承するロット情報項目(有効期限日やロット特性)を指定します。
継承受信先レコード(レシーバ)・・・T-code:DVR1
レシーバとなる品目を指定します。
その後、継承するロット情報項目(有効期限日やロット特性)を指定します。
レシーバ側の設定では、各項目ごとに継承ルールを設定します。
【ルール設定概要】
- センダ側のロット情報項目が空白だった場合、スルー・Error・Warningのどれにするか
- レシーバ側にすでにロット情報項目の値が入っていた場合、スルー・Error・Warningのどれにするか
- センダ:レシーバ=N:1 の場合、レシーバ側に設定する値を、複数センダのうちの最小値・平均・最大値のどれにするか
といった継承ルールを項目ごとに設定していきます。
ロット継承確認方法
ロット継承のログは、T-code:DVMO(ロット継承モニタ)にて照会できます。
T-code:DVMOでは、品目・ロット単位にロット継承のステータス(成否)と、継承された項目・値を照会することができます。
サマリ
ロット継承機能を使うことにより、ロットマスタのメンテナンスが楽になります。
一方でロット継承マスタの設定を、品目マスタ登録の都度、メンテナンスをする必要があります。
とはいえ、有効期限日やロット特性など、重要な値をロット継承で自動コピーをしたいというクライアントニーズは多いです。
アドオンせずにロット情報をコピーできるので、ぜひともロット継承の機能を使いこなしてもらえればと思います。