この記事では、PP(生産モジュール)の製造実績部分のプロセス・実施方法について解説していきます。
生産プロセス全体概要
まず前提として、生産プロセスは「生産計画」と「製造実績」の2つに分かれます。
「生産計画」で、いつ・どの品目を・どこで・いくら生産するか という計画情報を計算します。
その後、生産計画に基づいて、実際の「製造実績」をSAPにデータとして計上していくプロセスです。
生産プロセス全体については、こちらの記事で詳しく解説していますので、読んでみてください。
製造実績プロセス(概要)
製造実績プロセスは「製造指図登録」「製造実績計上」「製造指図クローズ」の3つに分かれます。
製造指図とは、製造担当者に いつ・どの品目を・どこで・いくら生産するか という指示情報が載った伝票のことです。
製造実績とは、製造指図(製造の指示情報)に対して、実際にどの材料をいくら使ったか・どの生産品をいくら作ったか・作業にいくら時間がかかったか という実績情報を計上することです。
製造指図クローズとは、これ以上の指図に対する実績計上をストップする・実際原価計算に使う指図を明示する処理のことです。
それでは、それぞれのSAPでの処理について詳しく解説していきます。
製造指図登録
製造指図は、「生産計画を元に変換」するパターンと「マニュアル登録」するパターンの2つに分かれます。
計画手配→製造指図変換(T-code:CO41)
まず「生産計画を元に変換」するパターンについて解説していきます。
生産計画プロセスのうちの「MPS・MRP(所要量計算)」によって、「計画手配」という伝票が登録されます。
計画手配とは、その名のとおり生産の計画情報が載った伝票です。 あくまで計画情報なので、製造現場の負荷状況やその他の要因を鑑みて、計画の修正が可能な段階です。
この計画修正が可能な段階の「計画手配」を、『さぁ製造してもOK!現場の皆さんこの製造指示情報でお願いします!』というのが、計画手配→製造指図変換 で行います。
T-code:CO41 で製造指図に変換する計画手配を指定し、実行をすることで、製造指図が登録されます。
実際には、計画手配はかなり先の日程のものまで登録されます。
そのため、計画がブレる可能性のある先の計画手配はそのまま計画手配として残しておき、選択画面で日付でフィルタリングをかけて計画手配→製造指図に変換する運用をすることが多いです。
製造指図登録(T-code:CO01)
製造指図登録(T-code:CO01)は、マニュアルで製造指図を登録する方法です。
ほとんどの企業では製造する前に、需要予測や実受注に基づいて、生産計画を立てるものです。
マニュアルで製造指図登録を使うのは、生産計画システムがSAP以外である場合に使用することが多いです。
この後説明する「受注紐づき製造指図登録(T-code:CO08)との違いは、T-code:CO01は「見込生産品」に対する製造指図登録であることです。
登録方法は、トップ画面で 生産品目・プラント・指図タイプ を指定します。
指図タイプとは、指図登録時の挙動を制御するキー項目です。
続いて登録画面では、生産数量・開始日付・終了日付を必須入力します。
他の構成品・作業情報はBOM・作業手順・作業区・製造バージョンといったPPマスタから自動で読み取られて製造指図にセットされます。
生産マスタについては、こちらの記事で解説しています。製造指図を登録するための前段情報のため、ぜひ読んでみてください。
仮にマスタ情報と異なる構成品や作業で指図登録したい場合には、この段階で変更します。
受注紐づき製造指図登録(T-code:CO08)
受注紐づき製造指図登録(T-code:CO08)は、マニュアルで製造指図を登録する方法です。
受注紐づき製造指図登録(T-code:CO08)は、「受注生産」の場合に使用します。
T-code:CO01 との違いは、生産品目・プラント・指図タイプ に加え、受注伝票番号・明細番号をキーに製造指図を登録します。
その他の登録方法については、T-code:CO01と同じです。
また、受注紐づき製造指図の場合、生産品入庫をした品目・ロットが「受注在庫」となり、指定した受注伝票に約束された在庫になります。
受注在庫になると、指定された受注伝票以外には、使用できない在庫となるため、受注に対して在庫を確約したい場合に使用します。
受注在庫については、こちらの記事で詳しく解説していますので、参考に読んでみてください。
製造指図リリース(T-code:CO02)
製造指図が登録されたら、指図ステータス:CRTD(作成済)という状態になっています。
CRTD(作成済)は、あくまで製造指図は予定段階ということを表し、実績計上ができない状態です。
そのため、指図ステータスをCRTD(作成済)からREL(リリース)に変更する必要があります。
指図リリース方法は、T-code:CO02(製造指図変更)で画面上部にある「旗マーク」をクリックし、保存することで指図ステータスをREL(リリース)に変更することができます。
REL(リリース)にすることで、製造指図に対して実績計上が可能な状態になります。
※T-code:CO02(製造指図変更)で実施 と紹介しましたが、製造指図登録時にリリースすることが確定しているのであれば、CO01 / CO08 上でリリースにして保存でもOKです。
製造実績計上
ここからは製造実績計上についてです。
製造実績計上では、製造指図に対して、構成品出庫・生産品入庫・作業時間 の3つの実績情報を計上していきます。
構成品出庫(T-code:MIGO)
構成品出庫では、実際に製造で使用した品目・数量・ロット・保管場所を指定し、出庫計上していきます。
T-code:MIGO で製造指図参照で、出庫処理をしていきます。
製造指図参照のため、製造指図の構成品情報が自動で画面に読み込まれます。
そして、以下情報を確認・入力します。
- 数量:指図の構成品数量と異なる場合は、数量を変更します。
- ロット:実際に使ったロット番号を指定します。
- 出庫保管場所:BOMマスタにデフォルト出庫保管場所を指定している場合は、自動で保管場所の値が入っています。 マスタに未設定 もしくは変更する場合には、実際に使った在庫の保管場所を指定します。
構成品出庫は、明細(品目)ごとにOKフラグにチェックを入れ、入力が完了すれば、保存ボタンをクリックします。
【実際の運用ケース1(分割出庫計上)】
実際の運用では、1指図に対し、分割で出庫処理をしても問題ありません。
一度出庫処理をし、次に出庫処理をしようとしたとき、MIGOで指図から提案される出庫数量は、残数量になっています。
イメージとしてはこんな感じです。
【実際の運用ケース2(指図以外の品目出庫計上)】
指図で指定されている品目以外の構成品目を実際に使った場合、MIGOの画面でマニュアルで品目・数量・ロット・保管場所を指定します。
生産品入庫(T-code:MIGO)
生産品入庫では、実際に製造で生産した品目・数量・ロット・保管場所を指定し、入庫計上していきます。
生産品入庫は構成品出庫と同様に、T-code:MIGO で製造指図参照で、入庫処理をしていきます。
同じく製造指図参照のため、製造指図の構成品情報が自動で画面に読み込まれます。
そして、以下情報を確認・入力します。
- 数量:指図の構成品数量と異なる場合は、数量を変更します。
- ロット:ロット番号を内部採番(自動採番)にしている場合は、BlankでOKです。外部採番(マニュアル採番)にしている場合は、ロット番号を入力します。
- 入庫保管場所:品目マスタにデフォルト生産保管場所を指定している場合は、自動で保管場所の値が入っています。 マスタに未設定 もしくは変更する場合には、実際に在庫計上する保管場所を指定します。
【実際の運用ケース(分割入庫計上)】
実際の運用では、分割で入庫処理をしても問題ありません。
指図入庫も出庫同様に、製造指図参照で入庫計上していくため、2回目以降の入庫では指図数量の差分数量がMIGO画面に提案されます。
また、指図の数量に対して、入庫数量が満たない場合は、指図ステータス:PDLV(一部納入)になります。
指図数量以上の入庫をすれば、指図ステータス:DLV(納入済)になります。
作業時間(T-code:CO11N)
作業時間では、T-code:CO11N で、製造指図・作業明細番号を指定し、実際に製造で作業した時間を活動タイプ単位で計上していきます。
活動タイプとは、原価計算で加工費を計上する単位で設定されることが多いです。
例えば人時間・機械時間 や 段取時間・処理時間・片付時間 や 固定時間・変動時間 といった具合に、原価(経理など)の要件によって決まります。
ここで活動タイプについて詳しく説明はしませんが、こちらの記事で解説していますので、気になる方は読んでみてください。
【実際の運用ケース(分割作業時間計上)】
実際の運用では、分割で作業時間計上で処理しても問題ありません。
指図入庫や出庫と同様に、2回目以降の作業時間計上では差分の作業j間がCO11N画面に提案されます。
また、指図の作業時間に対して、作業時間が満たない場合は、指図ステータス:PCNF(一部完了)になります。
指図作業時間以上の作業時間計上をすれば、指図ステータス:CNF(完了済)になります。
製造指図クローズ
製造指図クローズでは、「これ以上製造指図に実績を上げられないように制御をかける」「実際原価計算に使用する製造指図を明示する」という2つの意味合いがあります。
指図ステータス一括変更(T-code:COHV)
製造指図クローズをするには、指図ステータス:TECO(技術的完了)に変更します。
T-code:CO02(製造指図変更)で1指図ごと指図ステータスをTECOにすることもできますが、実際の運用では複数の製造指図を一括でステータス変更できるT-code:COHVを使用します。
T-code:COHV では、指図ステータスを変更する製造指図を指定し、指図ステータスをTECOに変更します。
【実際の運用ケース1】
指図の指定条件として、指図ステータス:PDLV or DLV といった製造実績計上理がされている指図を一括TECO。
【実際の運用ケース2】
指図の指定条件として、指図終了予定日が過去3日の指図を実績計上された or 作業不要とみなし、一括TECO。
サマリ
ここまで製造実績プロセスについて解説していきました。
オペレーションや実際の運用事例を読んでいただき、少しは製造実績プロセスについてイメージできたのではないかと思います。
生産プロセスは、各企業で独自文化が築き上げられているので、いかにSAP標準に合わせられるか要件定義フェーズが重要になります。
まずはSAPでどのような製造実績プロセスになるのかを理解したうえで、要件定義でFit & Gapを出していく参考になれば幸いです。