棚卸とは、「現場の在庫数量」と「SAP上の在庫数量」を合わせる業務です。
普段の業務で入出庫を正確に登録していれば、現場とシステムの在庫差異が出ることはありません。
しかし、システムを使っているのは人間で、入力した数値の間違いや、入力忘れなどは必ず起こります。
モノを扱う会社では、必ず棚卸業務があります。
この記事では、SAPの棚卸方法を解説していきます。
SAPの棚卸方法
SAPでの棚卸方法は、2つあります。
- 入出庫で棚卸差異数量を計上する方法
- 棚卸伝票を使用する方法
①入出庫で棚卸差異数量を計上する方法
①入出庫で棚卸差異数量を計上する場合、T-code: MIGO(入出庫伝票登録)で、1回の処理で対応できます。
プロセスのイメージとしてはこのようになります。
入出庫伝票登録の際に使う移動タイプは、こちらです。
移動タイプ | 利用シーン |
701 | 利用可能在庫 棚卸(増) |
702 | 利用可能在庫 棚卸(減) |
703 | 品質検査中在庫 棚卸(増) |
704 | 品質検査中在庫 棚卸(減) |
707 | 保留在庫 棚卸(増) |
708 | 保留在庫 棚卸(減) |
運用上、T-code: MIGOで入出庫伝票を登録するのみなので、いたってシンプルなプロセスです。
一方で、入出庫伝票で棚卸をするデメリットとして、いきなり差異数量が在庫に反映され、在庫金額に影響があることです。
経理視点では、いきなり会社の在庫資産が増えたり、減ったりしてしまうため、オフラインでの確認運用をする必要があります。
例えば、1kg10万円もする高級な液体を扱っていたとします。 仮にこの液体が棚卸増で数量+100KGだった場合、会社の在庫資産が1,000万円も増えることになります。
いきなり在庫資産が増減するのは、会計上インパクトがあまりにも大きいので、システムで差異数量・差異金額を確認できないのは、大きなデメリットです。
②棚卸伝票を使用する方法
棚卸伝票を使用する方法では、棚卸差異を確定する処理の前に、いくら在庫数量が増減するか、いくら在庫金額が増減するかの確認が可能です。
SAPの棚卸伝票を使用するプロセスは、以下の3つのStepで処理されます。
棚卸伝票登録
棚卸伝票登録では、登録処理を実行した時点の在庫情報を、棚卸伝票にコピーされ伝票登録します。
棚卸伝票登録には、次の2つの方法があります。
- T-code:MI31・・・伝票登録で登録処理を実行した時点の在庫情報が自動で棚卸伝票にコピーされます。
- T-code:MI01・・・マニュアルで棚卸を実施する品目・ロットを棚卸伝票に登録します。
通常は、T-code: MI31 を使って自動で棚卸伝票登録をします。
- 棚卸伝票は、プラント・保管場所単位で登録されます。
- 棚卸伝票明細は、品目・ロット単位で登録されます。
棚卸伝票登録時に、理論在庫を伝票登録時点でFixする「帳簿凍結機能」という機能があります。
棚卸理論在庫を棚卸伝票登録時か、検数入力時かを要件として決める重要なポイントになります。
詳しくはこちらの記事で解説していますので、読んでみてください。
棚卸検数入力
棚卸検数入力では、現場で数えた在庫数量を、①で登録した棚卸伝票に対して、入力していきます。
棚卸検数入力で使用するトランザクションコードは、次の2つです。
- T-code:MI04・・・棚卸明細(品目・ロット)ごとに、検数入力します。
- T-code:MI05・・・MI04で一度入力した検数に対して、変更入力ができます。
棚卸検数入力した時点では、棚卸差異数量・金額の確認が可能になります。
- T-code:MI20・・・棚卸差異数量・金額が確認できます。
※ここが入出庫伝票で処理するパターンとは異なり、確定処理前の差異数量・金額確認が可能になります。
棚卸差異決済
棚卸決済では、棚卸差異確認で確認した棚卸差異数量・金額に対して、確定処理をします。
棚卸差異決済で使用するトランザクションコードは、次の2つです。
- T-code:MI07・・・棚卸伝票ごとに決済処理を実施します。
- T-code:MI37・・・一括で複数棚卸伝票を決済処理します。
決済処理をすると、棚卸差異数量分の入出庫が自動で登録されます。
※ちなみに品質検査中在庫は、棚卸増減処理をすると、エラーが出ます。これは検査中の在庫は増減しない というSAPの考え方があるためです。
サマリ:どちらの棚卸方法を使用するべきか
SAPでは次の2つの棚卸方法があるとここまでお話ししてきました。
- 入出庫で棚卸差異数量を計上する方法
- 棚卸伝票を使用する方法
ではいったい、どちらの方法を使うべきでしょうか?
これはSAPを導入する「現場の運用」と「経理における在庫資産の考え方」によります。
現場の運用上、わざわざ棚卸伝票を登録し、伝票に対して各ロットの検数を入力するのが手間という場合は、①入出庫伝票のみを使用するべきでしょう。
しかし一方で、扱う在庫の1つ1つの金額が大きい場合は、入出庫処理をする前に金額インパクトを経理として確認しておきたい場合は、②棚卸伝票を使用するべきです。
棚卸は、在庫管理を行っている現場で運用するものですが、在庫金額にもインパクトがあるため、経理も交えて、最終的な運用を決めていくのがベターです。
(参考)棚卸データ変更方法
棚卸検数入力後、検数 または 理論在庫を修正・変更したい場合があると思います。
棚卸データの変更方法については、こちらの記事で解説していますので、ぜひ参考に読んでみてください。