BOMマスタとは、生産品目を製造するのに、どんな品目をいくら使うか といった品目の紐づき情報を持たせたマスタです。
この記事では、BOMマスタの設定方法について解説していきます。
Contents
BOMマスタとは
BOMの意味
BOMとは、Bill Of Material の略で、「品目の構成」という意味です。
なぜBOMが必要かというと、例えば、生産では”カレー”を作るのに”ご飯”と”ルー”がいる。 といったような”カレー”に対して、”ご飯”と”ルー”を構成的に紐づけた情報が必要です。
生産現場では製造担当者がすべて製造のレシピ(ここでいうとカレーに対してご飯・ルー)というのをすべて覚えているわけではありません。
そこで事前にBOMマスタとして品目の紐づき および それぞれいくら使うのかという数量情報を設定しておく必要があります。
設定イメージは、このようになります。
品目の紐づき と 数量情報 が入っていることが分かるかと思います。
BOMの種類
BOMにも生産のみならず、さまざまなBOMがあります。
BOM | 説明 |
生産BOM(M-BOM) | ManufacturingBOM の略。製造時に、何がいくら必要で、どれとどれを組み合わせていけばいいかの情報を持っています。 |
設計BOM(E-BOM) | Engineering BOM の略。設計時に、機能やグループ単位でツリー展開をしていきます。M-BOMは、下から組み立てていくのに対し、E-BOMは上から(最終製品から)展開していきます。 |
購買BOM | 購買部門が使うBOMで、材料や外注を見積・発注するための価格・購入単位情報を持っています。 |
サービスBOM | ある製品が、どのシリアル番号を持ったパーツで組み立てられたのかの情報を持ちます。例えば、とあるエヴァ初号機はの右腕は2015年式で、左腕は2017年式のパーツで組み立てられている、という情報を持ちます。 |
原価BOM | 原価を積み上げるために、使うBOMです。どのグルーピングで原価を積み上げていくか、ツリー上で表します。 |
※今回、この記事で解説するのはSAPで一般的に使われる「生産BOM」です。
SAPの生産BOMの役割
SAPの生産BOMの役割は主に3つあります。
- MPS・MRP(所要量計算)の展開
- 製造指図登録
- 標準原価計算
MPS・MRP(所要量計算)の展開
MPS・MRP(所要量計算)時に、最終製品の所要量に対して、下に紐づく半製品をいくら生産する必要があるのか、原材料をいくら購入する必要があるのか、という数量情報をBOMマスタを展開することにより算出します。
MPS・MRPのロジックについてはこちらの記事で解説してますので、読んでみてください。
製造指図登録
製造指図登録では、BOMマスタの品目・数量情報から登録されます。
イメージとして、カレー:1皿に対し、ご飯:1合・ルー:200ML というBOMがあった時、
製造指図登録で、カレー:2皿 で登録するとBOMから構成品目・数量が読み取られ、ご飯:2合・ルー:400ML 使って生産してね。 という製造指図が登録されます。
図で表すとこんな感じです。(中間品Aと原材料B・Cの数量関係が、BOM・製造指図で比例していることがわかります)
標準原価計算
標準原価とは、製品を作るのに理論値ではいくらコストがかかるのかというコスト計算のことです。
標準原価には、「材料費」と「加工費」を積み上げることで製品の原価が計算されます。
例えば、カレー(製品)を作るのに、ご飯とルーの材料費 が必要です。
ご飯・ルーがそれぞれ標準原価いくらなのか、そして数量いくら必要なのかというBOM情報を元にカレー(製品)の標準原価が計算されます。
標準原価計算については、こちらの記事で解説してますので、読んでみてください。
BOMマスタ設定の前提マスタ
BOMマスタを設定する前提として、品目マスタの設定が必要です。
BOMマスタは、生産品目・構成品目の紐づけ情報なので、登場する品目を予め品目マスタで設定しておきます。
BOMマスタ登録(T-code:CS01)
それではBOMマスタ登録について、項目レベルで解説していきます。(画面ごとに区切って解説を入れていきます。)
トップ画面
トップ画面では、キー項目である以下項目を指定して、登録画面に入ってきます。
項目名 | 意味 |
品目 | 生産品目の品目コード |
プラント | 生産するプラント |
BOM用途 | BOMの種類(下記詳細解説) |
代替BOM | BOMのバージョン(下記詳細解説) |
BOM用途
BOM用途には、以下のコードを指定できます。
- 1:生産BOM
- 2:設計BOM
- 3:一般
- 4:プラント保全BOM
- 5:受注BOM
- 6:原価BOM
通常、PPモジュールを使用する場合には、1:生産BOMを指定します。
これにより、上の「SAPの生産BOMの役割」のところで説明した、MPS・MRP、製造指図、標準原価計算に使用できるBOMを登録できます。
代替BOM
代替BOMとは、BOMのバージョンのことです。
例えば、季節変動でカレーのルー:200ML 作るのに、通常は水:200ML でいいのだが、夏は蒸発しやすいので水:220ML 必要だとします。
この場合、代替BOM:1 では構成品目の水:200ML。
代替BOM:2 には構成品目の水:220ML。
と設定することにより、BOMの使い分けをできるようにします。
これを「代替BOM」を使って、1つの生産品目に対し、複数の構成品目情報を持たせることができます。
ヘッダ
登録画面に入ると、「明細」設定画面になりますが、「ヘッダ」から解説していきます。
「ヘッダ」は画面上の「帽子ボタン」からヘッダ画面に遷移できます。
ヘッダでは、基本的に「基本数量」のみを設定します。
基本数量とは、数量当たりの構成品目の数量を設定する基準値になります。
例えば、生産品目 カレー:1皿(基本数量) と設定したときに、構成品目の数量はカレー:1皿作るために必要な数量を設定する必要があります。
何も考えない場合は、1 でOKです。
ただし、ここの基本数量を「生産ロット単位」に設定することで、構成品数量を設定しやすい場合は、生産品目によって、生産ロット数量に設定するケースもあります。
また、SAPの数量単位は、少数3桁しか持たせられません。
構成品目に少量の薬品を使っているとします。例えば、カレー:1皿作るのに、隠し味のバニラエッセンス:0.0001 ML を使用。
このとき、SAP上は、0.0001 ML と少数4桁は設定できません。
そのため、基本数量をあえて、カレー:10 皿 とすることで、構成品目 バニラエッセンス 0.001 ML と少数3桁に収まるように、基本数量を桁数カウントアップで設定するケースもあります。
明細
明細では、構成品目・数量・明細カテゴリを設定していきます。
明細カテゴリとは、在庫品なのか・非在庫品なのか・文書(設計書など)なのかを明示します。
生産BOMでの使用のため、基本的にここは「L:在庫品」を指定します。
構成品目・数量・明細カテゴリに加え、以下の項目を場合によって設定していきます。
【一般データタブ】
固定数量
固定数量フラグをONにしておくと、生産品目の製造数量がいくらであろうと、固定数量が製造指図にセットされます。
例えば、カレーを作ったのちに宅配用の箱に入れるとします。
この宅配用の箱は、カレーが何皿作られようと、固定で1箱の場合、固定数量フラグをONにしておくことで、製造指図には生産品目数量がいくらであろうと、宅配用箱:1箱 がセットされます。
作業不良率
作業不良率とは、構成品目を使用する作業にて「発生するであろう作業時間不良率」を設定します。
作業不良率のため、通常の作業時間に加えて、追加作業時間分が製造指図の作業時間に上乗せされます。
例えば、構成品目:Bを使用する作業:X は作業手順マスタで 1H と設定していたが、作業不良率:10%と設定されていた場合、製造指図上の作業時間は 1.1 H (1H x 110%)となります。
構成品不良率
構成品不良率とは、「構成品使用数量で発生するであろう数量不良率」を設定します。
構成品不良率のため、通常の構成品数量に上乗せで製造指図の構成品数量に上乗せされます。
例えば、構成品目:B の数量が100 PC で、構成品不良率が 15% だった場合、製造指図の構成品数量は、115 PC(100 PC x 115%)となります。
連産品フラグ
連産品とは、1つの製造指図で複数の生産品目ができることを言います。
生産品目はヘッダ品目に1つしか設定できません。
そのため、複数生産品目のうちの2品目目以降は、構成品目として数量をマイナスで設定します。
構成品目は出庫扱い。 → マイナスの出庫 = 入庫 という考えのため、構成品目に設定しているが連産品として入庫扱いにしたい品目は、連産品フラグをONにします。
連産品については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひ読んでみてください。
循環許可
循環許可をする品目・BOMのことを「循環BOM」と呼びます。
循環BOMは、プロセス生産をしている製薬メーカーや素材メーカーに多いです。
循環BOMとは、生産品目が再度構成品目として投入される品目・BOMのことです。
例えば、液体Aを投入して、液体Bを生産するとします。
次に液体Bで余った部分と液体Aを投入して、液体Bを生産します。
このとき、液体Bは永遠と生産→投入→生産→投入→生産→ と循環で繰り返されます。
この場合、循環許可:ONにしておかないと、MPS・MRP(所要量計算)や標準原価計算が永遠とループされることになります。
そのため、循環される品目には、循環許可:ONにしておく必要があります。
【ステータスタブ】
原価関連フラグ
標準原価計算の対象とする品目には、原価関連フラグ:X をセットする必要があります。
基本的には、X をセットしますが、原価計算に含めなくてもよい梱包材などの品目の場合、原価関連フラグをBlankにします。(原価計算に含めるかどうかは、クライアント要件次第です)
バルク品
バルク品とは、汎用ネジやガムテープなど、在庫管理しない消費品目のことです。
バルク品フラグ:ONの場合、MPS・MRP(所要量計算)や原価計算の対象外になります。
品目マスタ-MRP2ビューでバルク品フラグ:ONにしている場合、BOMますたでもデフォルトでバルク品フラグ:ONになります。
仮にBOM単位でバルク品として設定したい場合、品目マスタではフラグ:OFF にし、BOM単位でフラグ:ONに設定します。
出庫保管場所
出庫保管場所は、構成品目の出庫する保管場所をデフォルトでマスタにセットしておくことができます。
いつも同じ保管場所から出庫処理する場合は、BOMマスタに構成品目のデフォルト出庫保管場所を設定していた方が、指図出庫のオペレーション時にわざわざ保管場所を入力する手間が省けます。
BOMマスタ変更(T-code:CS02)
キー項目である、品目・プラント・BOM用途・代替BOM を指定してします。
このときに、変更番号・有効開始日を指定することにより、変更内容の反映日を指定することができます。
変更はこちらの記事で解説しているので、気になる方は読んでみてください。
変更は、品目・数量など、当初設定値を修正したり、新規構成品目の追加などをしていきます。
BOMマスタ照会(T-code:CS03)
キー項目である、品目・プラント・BOM用途・代替BOM を指定し、BOM情報の照会をします。
(参考)PPマスタ解説記事
PP(生産モジュール)で使用されるマスタをこちらの記事で解説しています。
各マスタの意味や、マスタ同士の紐づきについて解説しています。
BOMマスタも、他のPPマスタの設定があって効いてくるので、こちらも参考に読んでみてください。
今日学んだこと!
- BOMは生産品目の基本数量に対して、構成品目・数量の設定
- T-code:CS01にて登録(CS02:変更、CS03:照会)
- 特殊な使い方をする場合、明細レベルで固定数量・作業不良率・構成品不良率・連産品フラグ・循環許可・原価関連フラグ・バルク品・出庫保管場所などの設定をしていく必要がある